《岸本先生の人生いろいろ》神戸市在住の児童文学者のつぶやき~骨折して思うこと~

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㈱トムコ発行の情報紙(1996年~2019年発行)に掲載されたつぶやきから抜粋して随時皆様にお届けします。
今回は1999年1月のコラムです。

恥ずかしいことに、足の痺れが原因で足の甲にひびがはいった。私は机に向かい、椅子の上にあぐらをかくか、正座で仕事をすることが多い。新幹線で正座をしているお婆さんのたぐいだ。長時間になると痺れが切れることもある。ほんの少し待てばいいものを、慌てて立とうとしたものだから、足をグネッとやった。ボキッと、折れたと確信できるほどの大きな音がした。しかし、痛みがない。大丈夫だったんだろうかと思ってそっと歩いてみた。キーンと鋭い痛みが脳天に走り、その場に崩れた。しばらくすると腫れてきた。慌てて女房の職場に電話し、帰ってきてくれと頼んだ。受話器を置くと痛みが蘇り、それに堪えていると気分が悪くなってくる。そんな頭で妙なことを考えていた。恥ずかしい。たかが骨折で女房を呼ぶなんて。こりゃ、女房に負い目が出来たなと。それから2週間余り、今だに不自由な生活を続けている。

4日目の夕食時、後で新聞を取ってきてくれと娘に頼んだ。えーっとふくれた娘に養護学校に勤めている女房が静かにいった。「お父さんだけのことと違うよ。ようく聞き。体の不自由な人は、つらいと思いながら、本当に勇気を出して、人にものを頼むんよ。それを気持ち良く受けてやらないのは人間として最低のことやで」娘はぶすっとして聞いていた。

体が不自由になると、今まで思い至らなかった小さな事に気付く。車椅子で坂を下りる恐さ。松葉杖って二本の足で歩くよりよほど疲れること。すぐ側にあるものでも取るのにこんなに苦労するんかいな。わがままだとは思いながらああしてくれたら、こうしてほしいのにと無数に思う。思いながら、今まで不自由な人への接し方に繊細さが足らなかったことを恥じた。

玄関先でお向かいの人と話す女房の声が届いてくる。「もう子どもが1人増えたみたいなもんよ。炊事も後片付けもそうじもみ~んな私がせないかんねんよ」働いている女房に、普段から世話をかけている私は、ますます小さくなって本を読んでいる。

~岸本進一先生PROFILE~

神戸市北区在住の児童文学者。著書「ノックアウトのその後で」(理論社)にて1996年日本児童文芸家協会新人賞受賞。その他、ひだまりいろのチョーク(理論社)・とうちゃんのオカリナ(汐文社)・はるになたらいく(くもん出版)など、著書多数。
小学校教諭として23年間勤務。故灰谷健次郎氏と長年親交があり、太陽の子保育園の理事長も勤めた。

 

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Radish STYLE編集部

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「リビングパートナー」の名前で、地域の主婦の目線で情報発信。地域の主婦ならではの視点と絆で「人」「モノ」「お店」などをご紹介しています。
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