【コラム】児童文学者のつぶやき《岸本先生の人生いろいろ》~自然の力~

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私事ながら娘が遅い結婚をすることになった。私はだれかの結婚式に呼ばれると、山口百恵が歌っている「秋桜」(さだまさし作詞作曲)をピアノで弾いてあげることが多い。その歌詞の中に「♪縁側でアルバムを開いては 私の幼い日の思い出を・・・・」とあり、ついそこを口ずさんで家の中をうろうろしていたらしい。女房が娘の写真を整理し、四・五歳くらいまでの写真を五枚選び、写真立てに飾った。かわいい。変な言い方をすれば動物の子どもでもかわいいのだから、娘が特別にというわけではない。「ほら、これ。沖縄へ行った時のんやん」水着姿で振り向いているのは、私たちにとっては忘れられない出来事のあった一枚だった。

沖縄へは毎年灰谷さんが私たち家族三人を招待してくださった。そして彼の持ち船で無人島へ連れて行ってくれる。その海の美しさをどう表現すればいいのか私には言葉が見つからない。地球上でもっとも穢れのない透明な海。灰谷さんはその海に潜って突いてきた魚をその場で捌き、ご馳走してくれる。ある時娘は、その美味しさのあまり食べすぎたのか、便意を催した。「どうしょう・・・・。海にするしかないか」ということになり、浅いところで放出したのだが、それがみるみる美しい光景に変わったのだ。無数の色とりどりの熱帯魚たちがそれに群がり、一枚の抽象画と化した。しばらく見とれていたが、そのうち絵は崩れ去り、元の透明な海になった。

沖縄は今年で復帰五十年を迎えた。先日神戸新聞からの取材で、復帰五十年の感想をいろいろと聞かれた。その中で、「岸本さんは、沖縄と言えば真っ先に何を思い出しますか。多くの人は、ひめゆりの塔とか答えるんだけど」と言われ、私は少し迷ったが「やっぱり・・離島の海、かな」と答えた。七十七年前、沖縄では日本で唯一地上戦があり、島が血の海となったことを忘れてはならない。自分の子どもや肉親が死ぬことを想像するだけで、悲しみに震える。想像に絶するという言葉がある。しかし沖縄の悲しみは想像しなければならないし、その想像を忘れてはならない。

沖縄の人たちは誰もが優しいと感じる人は多いだろう。それは多くの肉親の死を乗り越えてきたからこその優しさで、それに甘えてはならないこともわかっている。しかし、私には沖縄の海の美しさが一番だ。復帰五十年というが、復帰とは名ばかりのように沖縄には米軍基地が広がっている。そして今度は移転の名のもとに辺野古の美しい海が埋め立てられている。私たち夫婦はコロナの流行る二年前の二月、二人で沖縄を旅した。その時、レンタカーで辺野古へ行ったが、高い塀に囲まれ、どこを探しても海への道は見つからなかった。先日北海道の知床で海難事故が起こった。その乗客の一人が、船が沈む前に奥さんに電話をしたという。「船がもうすぐ沈む。今までありがとう」と。それを聞いて私は声を出して泣いてしまった。一人の「死」がどれだけ多くの人を悲しませることか。ウクライナで起こっていることでもやはり私たちは多くの人の「悲しみ」を想像しなくてはならない。そしてそれは他人ごとではなく、いつ日本で起こっても不思議ではないことだと肝に銘じておくことだろう。

沖縄の海には「排泄」「殺戮」といった醜いものを美しく変えてしまう「力」がある。海だけではなく、森や大地という自然の持つ大きな「力」を私たちは子どもたちに残してやる責任がある。それが一番忘れてはならないことだと私は思っている。

~岸本進一先生PROFILE~

神戸市北区在住の児童文学者。著書「ノックアウトのその後で」(理論社)にて1996年日本児童文芸家協会新人賞受賞。その他、ひだまりいろのチョーク(理論社)・とうちゃんのオカリナ(汐文社)・はるになたらいく(くもん出版)など、著書多数。
小学校教諭として23年間勤務。故灰谷健次郎氏と長年親交があり、太陽の子保育園の理事長も勤めた。

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