【コラム】児童文学者のつぶやき《岸本先生の人生いろいろ》~だから旅は面白い~

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人生最後の旅になるかもしれないと思い、前回書いた「アンコール遺跡群」への旅を実行した。坐骨神経痛の悪化、体調も最悪だったが、教え子に同行してもらったので、少しは安心することができた。一人旅に近くなるようホテルの部屋は別、食事や移動以外はできるだけ別行動を取るようにした。行程はベトナム航空でホーチミン経由シェムリアップ。早朝出発し、14時間後にホテル到着でさすがにぐったり。しかもホテルのエアコン調節がうまくいかず、ろくに眠れずに朝を迎えた。だが気持ちが高揚しているせいか、朝8時予約のトゥクトゥクへ溌溂と向かった。アンコールは気温40℃にも上がり、日差しを遮るものも殆どない。体力のことを考えると、冷房の効いた車での移動が断然いいのだが、私たちは敢えて風を切り、風景のよく見えるトゥクトゥクを選んだ。

アンコール・ワットでは車の停車場所が変更され、目的地まで気が遠くなるような距離だったが、ひたすら美しい石造建築の全容を見ながら歩いた。アンコール・ワット、アンコール・トム他を4時間かけて回り、歩数計を見ると、1万8千歩も歩いていた。(感想を書くと長くなるので省略) ホテルへ帰ったのは昼過ぎだったが、食欲もなく、部屋に置かれていたモンキーバナナを1本だけ食べ、シャワーを浴び、2時間ぐっすりと昼寝をした。博物館とオールドマーケットへ行くつもりだったがその元気もなく、ぼーっとしていた。どうしてあんなに美しく、スケールの大きな石彫群を創ることができたんだろう。現代に創られる建造物のどれだけがこれらに匹敵し、歴史に残るのだろう。文明の発達、そして消費的な現代に生きていることがはたして幸せなことなのだろうか等と、まどろみながら考えていた。

次の日はエア・アジアでバンコクへ移動。この時大事件が起こった。ドムアン空港へ到着すると、有名なウィークエンドマーケットへ寄るため、モーチット行きのバスチケットを買い、出発寸前の「A2」のバスに飛び乗った。高速道路なので意外と早く「モーチット!モーチット!」と叫ぶ車掌のおばさんの声で私たちは慌てて降りた。マーケットのある反対側へ渡るため、階段を上って駅の改札の所まで来た時、相方が「ワァー!」と周りの人が振り向くほどの大声で叫んだ。「リュックを忘れた!」「何が入ってるんや」「パスポートや現金やカードの入った財布・・」あとは声にならない。

手あたり次第に人を掴まえ、どこへ連絡をしたらいいのかを英語で尋ねたが通じない。そのうちの一人、パイロットのような黒い制服と帽子を着た若い人、この人ならと行く道を塞ぐようにして尋ねたが、やはり通じない。しかし彼は落ち着いてスマホを取り出し、翻訳アプリを通じて尋ねてきた。相方も自分のアプリを使って必死だ。そしてようやく彼のスマホで警察へ連絡が付き、光が見え始めた。その間約半時間、彼はずっと穏やかな表情で付き合ってくれた。その時突然私達は思いついた。空港バスは必ず空港まで戻る。私は到着した時とは反対のバス停に走った。30本ほど書いてあるバスナンバーの中に「A2」がある。私は一縷の望みを持って何本ものバスをやり過ごし、ひたすら待った。来た!!「A2」私は道路に飛び出て大きく手を振った。ドアが開くと叫んだ。「リュック!!」すると車掌のおばさんがぬっと顔を出した。目を合わせるなり私達二人は「オーッ!!」と叫んだ。奇跡だ!! 本当に奇跡だ。おばさんからリュックを受け取り、リュックを手にした写真を撮られると、礼もそこそこに相方のところへ走った。彼は崩れ落ちるようにしてバッグを受け取った。そして40分以上も付き合わせた制服さんに何度も頭を下げたが、彼はやはり落ち着いた様子でドンマイと手合図をし、微笑みながら去っていった。

パスポートやお金は失っても何とかなっただろう。しかし、やさしさや思いやりを失ってしまえばどうにもならない社会になるかもしれない。「微笑みの国タイ」から私たちは大きなものを得たような気がする。二人で何度もそんなことを話しながらバンコクで二日を過ごし、大韓航空ソウル経由で無事帰国した。

~岸本進一先生PROFILE~

神戸市北区在住の児童文学者。著書「ノックアウトのその後で」(理論社)にて1996年日本児童文芸家協会新人賞受賞。その他、ひだまりいろのチョーク(理論社)・とうちゃんのオカリナ(汐文社)・はるになたらいく(くもん出版)など、著書多数。
小学校教諭として23年間勤務。故灰谷健次郎氏と長年親交があり、太陽の子保育園の理事長も勤めた。

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9月の定例講習

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今井令子

トムコ垂水・西神店ラディッシュ企画編集室の今井です。小学生の男の子と女の子と2匹のワンコのため色々ハンドメイドするのが趣味です。人にできて自分に出来ないわけがない!と、やりたいと思ったらすぐ実践してしまうので、やって良かったこと、やっぱり無理だったことを皆さんにお伝えできれば嬉しいです。
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