《岸本先生の人生いろいろ》神戸市在住の児童文学者のつぶやき~「欲」のバランス~

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「欲深い」「欲の塊」「欲に目が眩む」など、「欲」にまつわることばにはあまりいいイメージはない。確かに人間にとって欲は「悪」につながる恐れがある危険な言葉だ。私も欲によって失敗したという思い出はいくつもあるし、今も賭け事が好きという欲にかまけている。ただ、周りに悪影響を及ぼさない欲であれば目をつむることはできるが、「出世欲」や「権力欲」などは人を巻き込むことも多く厄介だ。会社勤めをした経験のある人なら、一つや二つはそんな経験はあるだろう。

私も、巻き込まれはしなかったが、出世欲の醜さを目の当たりにしてため息をついたことがある。私とほぼ同じ年齢の先生だが、国語専門の偉いさんになるためにいくつもの論文を書く。それを書いているのがたぶん授業中だ。私は三度ほど彼の教室の前を通りかかったことがあるが、いつも子どもは自習。彼は自分の机でパソコンを打っていた。他の先生に聞いてみるとそれはいつものことらしい。結果彼は国語のトップになり、退職後ある大学に呼ばれて教授になった。迷惑したのは子どもたちである。大学の先生になったところでそれがどうしたと言いたいところだ。権力欲はもっと怖い。多くの政治家はこれを持っているからこそ政治家になっているといっても過言ではない。そしてそれが暴走するとロシアのプーチン大統領、挙句はヒットラーとなる。

しかし、同じ「欲」でも意欲や知識欲は必要だ。人間にとってそれがなければ進歩はない。ただ、それらは権力欲や出世欲と表裏一体であるところが、これまた厄介である。「英雄色を好む」というが、すべての欲は、良くも悪しきもつながっているのだろう。それをうまくコントロールできた人が、歴史に残るような政治家となったり、文学者や芸術家となったりして名を残しているのだ。

 

私はこの「欲」をうまくコントロールできていた人物を一人だけ実際に知っている。児童文学者の「灰谷健次郎」だ。彼とは四十年にもわたって親しくしてきたが、「欲」は強い。二度結婚し、競馬は死ぬ間際まで競馬新聞を離さなかった。私が仕事で東京へ行くと、必ずと言っていいほど三人一緒に地方競馬に行った。彼は貧乏な私たちに二万円ほどの軍資金をくれる。私たちはどのレースにもかけて最後はすっからかんになるのが常だったが、彼は違った。じっくりと新聞を研究し、十二レースの中の一つか二つしか賭けず、必ず勝つのだ。そしてその金でまたすっからかんの私たちにご馳走をふるまってくれる。

彼と知り合ってしばらくしたころ、彼のアパートへ行って驚いたことがある。六畳いっぱいの本の隙間から出してきたものは、巻物のようにした長い紙にぎっしりと貼られた競馬新聞の切り抜きだった。物欲と知識欲の絡み合わせが絶妙なのだ。また彼ほどの読書家も見たことがない。文学、政治、ノンフィクション、あらゆる分野の書籍を週3・4冊の割合で読んでいた。彼は知識欲と名誉欲ともうまく絡ませてあれだけの作品を残せたのだろう。

子どもの成長にとっても「欲」は必要でありまた不必要である。欲を抑えれば意欲も知識欲もなくなり、欲を野放しにすれば悪となる。殆どの人に隠れた能力が潜んでいるのに、花開くことなく人生を終えていくのは、このコントロールが大きく関係しているのだろう。勿論平凡に何事もなく、穏やかな人生を送ることも幸せなことだとも思っている。

~岸本進一先生PROFILE~

神戸市北区在住の児童文学者。著書「ノックアウトのその後で」(理論社)にて1996年日本児童文芸家協会新人賞受賞。その他、ひだまりいろのチョーク(理論社)・とうちゃんのオカリナ(汐文社)・はるになたらいく(くもん出版)など、著書多数。
小学校教諭として23年間勤務。故灰谷健次郎氏と長年親交があり、太陽の子保育園の理事長も勤めた。

 

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Radish STYLE編集部

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